名古屋モスクは、愛知県名古屋市中村区に位置する、日本を代表するモスク(イスラーム礼拝施設)のひとつです。1998年に開設されて以来、礼拝の場としてだけでなく、学び・交流・相互理解を深める拠点として、地域社会と深く関わりながら歩みを続けてきました。名古屋という国際都市において、多様な文化や宗教が共存する象徴的な存在でもあります。
名古屋モスクの母体となったのは、1980年代に名古屋へ留学してきたイスラーム諸国の学生たちによって設立された名古屋イスラム協会です。当時、彼らは安定した礼拝の場を持つことができず、市内のアパートを転々としながら礼拝を行っていました。外国人が集まることへの不安から、住民との摩擦が生じることも少なくありませんでした。
こうした状況の中で、「永続的に利用できる、自分たちのモスクを持ちたい」という思いが高まり、国内外のムスリムからの寄付を集める活動が始まりました。その努力が実を結び、1998年7月、現在の名古屋モスクが完成しました。
実は名古屋には、戦前にもモスクが存在していました。1936年、タタール人を中心に設立された旧・名古屋モスクは、日本で神戸モスクに次いで2番目に建てられたモスクでした。しかし、1945年の空襲によって焼失し、その後長らく名古屋にモスクは存在しませんでした。
現在の名古屋モスクは、そうした歴史を受け継ぎつつ、戦後日本における新たなイスラーム共同体の象徴として再び築かれた存在であると言えるでしょう。
名古屋モスクは、鉄筋コンクリート造4階建ての建物で、日本では珍しい「ビル型モスク」です。外観は落ち着いた色合いで、都市景観に溶け込みながらも、2本のミナレット(尖塔)がモスクとしての存在感を示しています。
1階には事務所とウドゥ(小浄)のための設備があり、2階は女性専用礼拝室、3階と4階は男性用礼拝室として利用されています。各階は約60人を収容でき、特に女性用礼拝室を設けた点は、当時の日本のモスクとしては先進的な取り組みでした。
利用者の増加に伴い、2013年と2017年には隣接する建物を取得し、礼拝や活動の場を拡張しています。
名古屋モスクは、2002年に宗教法人として正式に認可され、現在は宗教法人名古屋イスラミックセンターによって運営されています。モスクは特定の宗派に偏らず、スンナ派・シーア派を問わず、すべてのムスリムに開かれた場であることを大切にしています。
2009年には、エジプトの名門アズハル大学で学んだイスラーム学者が常駐イマームとして迎えられ、宗教的指導体制も安定しました。
名古屋モスクの大きな特徴は、宗教施設でありながら、社会に開かれた多彩な活動を行っている点にあります。日々の礼拝に加え、アラビア語教室、講演会、勉強会、結婚や改宗の手続き、葬儀の支援など、ムスリムの生活全般を支えています。
特にラマダーン月には、日没後の食事であるイフタールが提供され、国籍や世代を超えた交流の場となります。
名古屋モスクでは、女性や子ども、若者を対象とした自主的なグループ活動が盛んに行われています。日本人女性向けのお茶会や勉強会、子どものためのイスラーム学習クラス、中高生・若者の居場所づくりなど、多様なニーズに応える活動が継続されています。
これらの活動は、日本語で行われるものが多く、日本人ムスリムや非ムスリムにとっても参加しやすい環境が整えられています。
名古屋モスクは、地域住民や一般の見学者にも積極的に門戸を開いています。見学者は年間300〜400人にのぼり、イスラームへの理解を深める機会として好評です。館内には日本語のパンフレットが用意され、宗教的背景を丁寧に解説しています。
また、自治体や教育機関、企業からの依頼による出張講演や交流活動も行い、相互理解の促進に力を入れています。
近年では、新型コロナウイルス感染症の拡大により、一時的に礼拝の中止を余儀なくされるなど、社会情勢の影響も受けました。しかし、その後は感染対策を講じながら活動を再開し、再び多くの人々が集う場となっています。
名古屋モスクは、単なる宗教施設にとどまらず、多文化共生を体現する存在として、名古屋の観光・文化資源の一つとも言えるでしょう。
名古屋モスクは交通アクセスにも恵まれています。
名古屋市営地下鉄東山線 本陣駅から徒歩約6分
名鉄名古屋本線 栄生駅から徒歩約9分
名古屋駅 太閤通口から徒歩約18分
名古屋モスクは、名古屋の街に根ざしながら、宗教・文化・国籍の垣根を越えた交流を育んできました。訪れる人々にとっては、イスラームを知る学びの場であり、ムスリムにとっては心の拠り所です。観光の視点から見ても、名古屋の多様性と国際性を感じられる貴重なスポットとして、ぜひ注目したい場所です。