稲武夏焼温泉は、愛知県豊田市稲武地区、奥三河の山々に囲まれた静かな地に湧く温泉郷です。城ヶ山のふもと、国道153号線(飯田街道)と国道257号線(美濃街道)が交差する稲武地区の中心部に位置し、古くから交通の要衝として栄えてきました。豊かな自然と素朴な温泉文化が今も色濃く残るこの地は、「奥三河の秘湯」として多くの温泉愛好家に親しまれています。
温泉地の中心を流れる名倉川は、稲武夏焼温泉の景観を語るうえで欠かせない存在です。夏には清流を活かした渓流遊びが楽しめ、川辺では涼やかな水音が心地よく響きます。秋になると周囲の山々は鮮やかな紅葉に包まれ、川面に映る色彩が訪れる人々を魅了します。春の新緑、冬の澄んだ空気と雪景色など、一年を通じて自然の移ろいを間近に感じられるのも、この温泉地ならではの魅力です。
稲武夏焼温泉の泉質は重曹泉で、源泉温度は約13℃と低めですが、適温に加温されて提供されています。重曹泉は入浴後に肌がなめらかになることから「美肌の湯」とも呼ばれ、湯上がりのさっぱりとした感触が特徴です。保温性にも優れ、冷えやすい山間部の気候の中でも、体の芯から温まることができます。
稲武夏焼温泉の温泉街は、大規模な観光地とは異なり、旅館が2~3軒点在するのみの小さな温泉地です。そのため、喧騒とは無縁の落ち着いた雰囲気が漂い、心身をゆっくりと休めたい方に最適な環境が整っています。名物の大岩風呂では、自然石を活かした豪快な造りの浴槽に身を沈め、山里の風情を感じながら入浴を楽しむことができます。
稲武夏焼温泉には、「岡田屋」や「青柳亭」といった温泉宿があり、宿泊はもちろん日帰り入浴も可能です。いずれの宿でも、山菜や川魚など山の幸をふんだんに使った料理が提供され、四季折々の味覚を楽しむことができます。温泉と郷土料理を組み合わせた滞在は、旅の満足度を一層高めてくれるでしょう。
夏焼温泉は、もともと自然湧出していた天然温泉として知られていました。その後、ボーリングによって新たに湯を得た「稲武温泉」と統合され、現在の稲武夏焼温泉という名称になったと伝えられています。古くから人々の生活と密接に関わってきた湯は、長い年月を経てもなお、変わらぬ癒やしを提供し続けています。
温泉周辺には、紅葉の名所として知られる大井平公園、しだれ桜で有名な瑞龍寺、水芭蕉を眺めながら散策できる城ヶ山など、自然美を満喫できるスポットが点在しています。また、少し足を延ばせば「道の駅どんぐりの里いなぶ」があり、日帰り温泉「どんぐりの湯」や地元特産品の買い物も楽しめます。
稲武夏焼温泉へは、車でのアクセスが便利で、豊田市中心部から国道153号線を利用して約60分ほどです。公共交通機関の場合は、豊田市駅からバスを利用して訪れることができます。自然豊かな奥三河の風景を楽しみながらのドライブやバス旅も、この温泉地を訪れる楽しみの一つです。
稲武夏焼温泉は、深い緑と清流に囲まれた奥三河ならではの静かな温泉郷です。派手さはないものの、自然と調和した落ち着いた雰囲気、肌にやさしい泉質、そして心温まるもてなしが、訪れる人々を優しく迎えてくれます。日常の喧騒を離れ、名倉川のせせらぎに耳を傾けながら、ゆったりとした時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。