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長瀬八幡宮

(ながせ はちまんぐう)

武家の信仰と歴史を今に伝える古社

長瀬八幡宮は、愛知県岡崎市森越町に鎮座する、由緒ある八幡神社です。かつては文化4年(1807年)に建立された木造の大鳥居で広く知られていましたが、この鳥居は1990年(平成2年)9月19日の台風19号によって惜しくも倒壊しました。現在もその歴史と記憶は、地域の人々や参拝者の間で語り継がれています。

長瀬八幡宮は、平安時代から戦国時代、江戸時代へと連なる武家の信仰と深く結びつきながら歩んできた神社であり、岡崎の歴史を語るうえで欠かすことのできない存在です。観光の視点から見ても、史実と伝承が重なり合う魅力的な神社といえるでしょう。

源頼義の祈願に始まる創建の物語

社伝によれば、長瀬八幡宮の創建は平安時代中期にさかのぼります。天喜4年(1056年)、源頼義は朝廷の命を受け、陸奥国で勢力を誇っていた安倍頼時討伐へと向かいました。京都を発った頼義一行は、三河国を流れる矢作川に差し掛かりますが、折からの洪水により渡河できず、立ち往生してしまいます。

その際、頼義は「弓矢八幡」に一心に祈願したと伝えられています。すると不思議にも川の水勢が和らぎ、無事に矢作川を渡ることができたといいます。戦いを終えた康平6年(1063年)、頼義はその加護に感謝し、この地に小さな祠を建てました。これが、長瀬八幡宮の始まりとされています。

武家からの厚い崇敬と社殿の変遷

長瀬八幡宮は、鎌倉時代に入ると源氏や北条氏から外護を受け、武家の信仰を集める神社として発展していきます。さらに室町時代には、足利尊氏が社殿を復興し、板倉氏を神主として奉仕させたと伝えられています。

文明8年(1476年)には、松平氏の祖とされる松平親忠が社殿の改造を行いました。こうした事実からも、長瀬八幡宮が三河武士の精神的支柱として重んじられてきたことがうかがえます。

徳川家康と「鹿の導き」の伝説

長瀬八幡宮を語るうえで欠かせないのが、徳川家康にまつわる伝説です。永禄3年(1560年)、桶狭間の戦いで織田信長に敗れた今川義元のもとから離れ、追われる立場となった若き家康は、この地を通って逃走していました。

その際、長瀬八幡宮の森から一頭の鹿が現れ、まるで導くかのように家康を先導したといわれています。家康はその鹿の後を追って矢作川を無事に渡り、大樹寺へと辿り着くことができました。この出来事は、後の家康の人生を大きく左右する転機となったとされています。

家康はこの加護に深く感謝し、後に『神代小町絵巻』を奉納しました。この絵巻は小野小町の生涯を描いたもので、現在は岡崎市美術博物館に保管されています。社務所や岡崎市立矢作北小学校には、そのレプリカが展示されており、参拝とあわせて歴史に触れることができます。

江戸時代以降の歩みと大鳥居の建立

戦国時代が終わり、田中吉政が岡崎城主となると、城の用材確保のため、長瀬八幡宮の建物や石垣が一部取り壊されたと伝えられています。それでも神社の信仰は途絶えることなく、慶長8年(1603年)には伊奈忠次の黒印状によって長瀬村内に60石が与えられました。

さらに慶安元年(1648年)2月24日には、三代将軍徳川家光の朱印状を受け、幕府からも正式に保護される神社となりました。

文化4年(1807年)には、現在の越野神社付近に木造の大鳥居が建立されます。この大鳥居は長瀬八幡宮の象徴的存在として親しまれ、地域のランドマークでもありました。1959年(昭和34年)の伊勢湾台風では大きな被害を受けながらも修繕されましたが、1990年の台風19号によって倒壊し、その役目を終えました。

近代以降の社格と建築

明治5年(1872年)、長瀬八幡宮は郷社に列せられ、地域を代表する神社としての位置付けを確立します。翌1873年(明治6年)には、大樹寺から表門が移築され、境内の景観に新たな歴史的価値が加えられました。

こうした変遷を経て、長瀬八幡宮は現在も地域の人々に守られながら、静かにその歴史を伝え続けています。

例大祭と地域に息づく信仰

長瀬八幡宮では、毎年10月第3日曜日に「例大祭」が斎行されます。この祭りは、古くから続く伝統行事であり、地域の結束を感じさせる重要な催しです。

祭り当日には、神に奉献する幣帛を唐櫃に納め、神職が担いで進む行列が行われます。棒引きの先導のもと、厳かな雰囲気の中で境内へと進む姿は、参拝者の心を引き締める光景です。また、子供たちによる子供神輿の練り歩きも行われ、境内は終日、にぎやかな空気に包まれます。

観光としての長瀬八幡宮の魅力

長瀬八幡宮は、華美な装飾よりも、長い歴史と数々の伝承に裏打ちされた重厚な雰囲気が魅力の神社です。源頼義や徳川家康といった歴史上の人物にまつわる物語を知ったうえで参拝すると、その一つひとつの風景がより深く心に響くでしょう。

岡崎城や大樹寺など、周辺の歴史スポットとあわせて訪れることで、三河武士の精神文化や、地域に根差した信仰の姿を立体的に感じることができます。歴史散策を楽しみたい方にとって、長瀬八幡宮はぜひ立ち寄りたい観光スポットの一つです。

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名称
長瀬八幡宮
(ながせ はちまんぐう)

岡崎・豊田・奥三河

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