設楽町は、愛知県北東部の北設楽郡に属し、奥三河と呼ばれる山深い地域に位置する町です。町域の大部分を山林が占め、清らかな川と豊かな森に囲まれたこの地には、古くから人々の営みが息づき、多彩な歴史遺産や文化、自然景観が今も大切に守られています。観光地としての派手さはありませんが、静かな山里ならではの魅力にあふれ、訪れる人に深い感動と癒やしを与えてくれます。
設楽町は、中央構造線に近い地質的に興味深い地域で、領家花崗岩や領家変成岩が広く分布しています。この複雑な地質構造が、険しい山々や深い谷、清らかな水を育み、奥三河ならではの景観を形づくっています。
町内には多くの山々が連なり、なかでも標高1,153メートルを誇る鷹ノ巣山(段戸山)は、設楽町を代表する名峰として知られています。ほかにも大鈴山、鞍掛山、岩古谷山、白鳥山などが点在し、登山やトレッキング、四季折々の自然観察を楽しむ人々を惹きつけています。
設楽町には、三河地方を代表する河川である豊川をはじめ、寒狭川、名倉川、段戸川、津具川など、多くの清流が流れています。これらの河川は、豊川水系・矢作川水系・天竜川水系という三つの水系にまたがっており、地形の多様性を物語っています。
また、町内には段戸湖といった湖沼もあり、釣りや自然散策の場として親しまれています。澄んだ水と豊かな森が織りなす景観は、訪れる人の心を癒やしてくれます。
設楽町を代表する史跡の一つが、田峯城です。文明2年(1470年)に田峰菅沼氏によって築かれた山城で、奥三河を代表する中世城郭として知られています。山の地形を巧みに利用した曲輪や土塁が残り、物見台からは名倉盆地を一望できます。城の麓には、三河三観音の一つである田峰観音(谷高山 高勝寺)があり、城と信仰が一体となった歴史的景観を楽しむことができます。
このほかにも、湯谷城址、小鷹城址、津具城址、長江城址、岩古谷城址、清水城址、寺脇城址、田内城址など、多くの山城跡が点在しています。いずれも戦国時代の奥三河を舞台にした攻防の歴史を物語る貴重な遺構で、歴史散策やハイキングを兼ねた観光に最適です。
町内には、玉宝院、金龍寺、幸秀寺、十仏寺、常光寺、大蔵寺、多宝寺、東泉寺、福田寺など、多くの寺院が点在しています。とくに福田寺には、武田信玄の供養塔と伝えられる史跡があり、戦国史に興味のある方には見逃せない場所です。
神社では、白鳥神社が各地区に鎮座し、津具の白鳥神社では国の重要無形民俗文化財に指定されている花祭が毎年1月に行われます。夜を徹して舞や神事が奉納される幻想的な祭りは、設楽町を代表する文化行事です。また、津具八幡宮の御神木であるスギの巨木や、巌嶽神社など、自然信仰と結びついた神社も多く見られます。
鞍船遺跡は、縄文時代前期の竪穴住居跡が確認されている遺跡で、大正11年に発見されました。山間部でありながら、古くから人々が自然と共生しながら暮らしていたことを今に伝える貴重な史跡です。
設楽町には、自然の魅力を存分に楽しめるスポットが数多くあります。面ノ木園地や天狗棚は標高1,000メートルを超える高原地帯にあり、春のミツバツツジ、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季折々の表情を見せてくれます。特に段戸裏谷原生林「きららの森」は、愛知県内最大級のブナ原生林として知られ、樹齢200年を超える巨木が立ち並ぶ圧巻の景観が広がります。
段戸湖では、ルアー・フライフィッシングを楽しむことができ、自然の中で静かな時間を過ごしたい方に人気です。また、塩津温泉では、山里ならではの落ち着いた雰囲気の中で旅の疲れを癒やすことができます。
道の駅したらは、設楽町観光の拠点として人気のスポットです。廃線となった旧豊橋鉄道田口線の木製車両展示をはじめ、地域の歴史や文化を学べる施設が充実しています。地元産の新鮮な野菜や特産品の販売、食事処もあり、観光客だけでなく地元の人々にも親しまれています。
さらに、設楽ダム工事現場見学や、フィルムステンドグラス、木工・革細工などの体験プログラムも用意されており、ものづくりや学びを通じて設楽町の魅力を体感できます。
設楽町は花の名所や天然記念物の宝庫でもあります。金龍寺のしだれ桜や福田寺のシダレザクラ、和市薬師堂のエドヒガン桜など、春には町内各地で美しい桜が咲き誇ります。また、豊邦のアカガシや津具八幡宮のスギといった巨木は、長い年月を生き抜いてきた自然の力強さを感じさせてくれます。
設楽町では、旧石器時代から人々の活動が確認されており、川向市場口では当時の石器が発見されています。縄文時代には、狩猟採集に適した自然環境に恵まれ、多くの人々が暮らしていました。中央構造線に近いことから黒曜石の産地ともなり、交易の拠点としての役割も果たしていたと考えられています。
弥生時代に入ると、稲作を基盤とする生活様式が広がる一方、設楽町のような山間部では水田開発が難しく、人口は一時的に減少しました。しかし古墳時代になると、名倉盆地を中心に再び人々が住み始め、小規模ながら古墳が築かれています。これは、この地での生活が決して容易ではなかったことを示しています。
平安時代末期には、設楽荘や高橋新荘といった荘園が開発され、境川がその境界となりました。戦国時代になると、田峯城を拠点とした菅沼氏が支配し、やがて武田信玄、織田信長、徳川家康といった名だたる戦国武将の勢力下に入ります。
この時代には、津具金山の開発も行われ、山深い設楽町が戦略的・経済的に重要な地域であったことがうかがえます。
江戸時代には幕府領や挙母藩領として統治され、山林資源を活かした暮らしが続きました。木材生産や炭焼き、農業を基盤とした生活の中で、独自の民俗文化や信仰が育まれていきます。
設楽町は、全国的にも貴重な民俗芸能が数多く伝えられている地域です。1月に津具地区の白鳥神社で行われる花祭は、国の重要無形民俗文化財に指定されており、夜を徹して舞や神事が行われます。
また、2月には田峯観音や黒倉神社で三河の田楽や地狂言が奉納され、8月には諏訪神社で勇壮な棒の手が披露されます。11月の参候祭など、年間を通じて地域の信仰と結びついた祭りが行われ、訪れる人々を魅了しています。
設楽町の特産品として知られるのが、山の恵みを活かした食品や日本酒です。特に関谷醸造の日本酒は、清冽な水と寒冷な気候を活かした銘酒として高く評価されています。また、田峯地区で生産される田峯茶や、伝統製法によるからすみなど、素朴ながら滋味深い味わいが魅力です。
町内には、道の駅つぐ高原グリーンパーク、道の駅アグリステーションなぐら、道の駅したらの三つの道の駅が整備されています。いずれも地元の特産品販売や観光情報の発信拠点として機能しており、ドライブ観光の立ち寄りスポットとして人気を集めています。
設楽町は、山城や寺社といった歴史遺産、原生林や高原に代表される雄大な自然、そして体験型観光が一体となった奥三河屈指の観光地です。静かな環境の中で、歴史に思いを馳せ、自然に癒やされ、地域文化に触れる旅は、きっと心に残るものとなるでしょう。都会の喧騒を離れ、ゆったりとした時間を過ごしたい方に、設楽町はおすすめの旅先です。