鳳来寺山は、愛知県新城市鳳来寺に位置する標高695メートルの霊峰で、1300年以上にわたり人々の信仰と自然崇拝を集めてきた特別な山です。この標高は、山頂標識の北側にそびえる岩峰「瑠璃山」の高さを指しており、山全体は太古の火山活動によって形成された地形を今に伝えています。
現在は活動を終えた「死火山」とされ、長い年月をかけて侵食された岩肌と深い森が、荘厳な景観を生み出しています。「声の仏法僧(コノハズク)」と称されるフクロウの一種が棲息していることでも有名であり、特に紅葉の名所として毎年多くの観光客が訪れます。
鳳来寺山は古来より霊山として崇敬され、修験者の修行の場、そして真言・天台密教の道場として栄えてきました。その信仰の中心にあるのが、山の中腹に佇む古刹鳳来寺です。寺は今から約1300年前、利修仙人によって開かれたと伝えられ、山そのものが仏の宿る場所として大切にされてきました。
寺伝によれば、大宝2年(702年)、利修仙人はこの山に籠り修行を重ねていました。やがて文武天皇が病に伏された際、勅命によって都へ招かれた利修仙人は、鳳凰に乗って参内し、七日七晩の祈祷によって天皇の病を癒したと伝えられています。その功績に深く感銘を受けた天皇は伽藍を建立させ、「鳳凰に乗って来た寺」として鳳来寺の名を授けたとされます。
鳳来寺山の麓・門谷からは、1425段にも及ぶ表参道の石段が続いています。この石段は源頼朝の寄進と伝えられ、参拝と修行の道として、多くの人々が一歩一歩踏みしめて登ってきました。石段を進むごとに、奥三河の深い森と澄んだ空気に包まれ、日常から切り離された静寂の世界へと導かれます。
石段の途中には、徳川家光によって慶安4年(1651年)に建立された仁王門があり、現在は国の重要文化財に指定されています。その先で目を引くのが、名木として知られる傘杉(かさすぎ)です。
傘杉は推定樹齢800年、樹高60.8メートルを誇る巨木で、幹の上部から枝が四方に広がり、まるで大きな傘を広げたような姿をしています。新日本名木百選にも選ばれ、日本一高い杉としても知られるこの木は、鳳来寺山の自然と信仰を象徴する存在です。
鳳来寺山は、約1400万〜1500万年前に活発だった火山活動の名残によって形成されました。山体の下部は砂岩・泥岩からなる海成層で、上部は火山岩類が重なっています。主要な岩石は、ガラス質で松脂のような断面を持つことから松脂岩(ピッチストーン)と呼ばれています。
これほど大規模に松脂岩が分布する場所は、日本国内でも鳳来寺山のみとされ、学術的にも極めて貴重です。鏡岩(屏風岩)に代表される岩肌の露出した景観は、古くから山岳信仰の対象となり、人々の畏敬の念を集めてきました。
鳳来寺山は、全山の大部分が原生林に近い状態で保たれており、温帯と暖帯の植物が混生する豊かな植生を誇ります。モミやツガといった温帯樹種に加え、シイ・カシ類、ヤブツバキなどの暖帯植物が共存し、さらにラン類、シダ類、蘚苔類の宝庫としても知られています。
鳳来寺山は、愛知県の県鳥であるコノハズクの代表的な生息地として全国的に有名です。コノハズクの鳴き声は古くから「仏法僧」と聞きなされ、「声の仏法僧」として親しまれてきました。
昭和10年(1935年)には、名古屋放送局が鳳来寺山からコノハズクの鳴き声を夜間生中継することに成功し、学術的にも「声の仏法僧」と「姿の仏法僧(ブッポウソウ)」の混同を解明する重要な契機となりました。
鳳来寺山は、昭和6年(1931年)に国の名勝および天然記念物に指定され、さらに平成19年(2007年)には日本の地質百選にも選定されました。加えて、「観光地百選」「生活環境保全林百選」にも名を連ね、自然・文化・学術の三面から高く評価されています。
最も歴史を感じられるのが、門谷から始まる表参道ルートです。1425段の石段を登りながら、仁王門や傘杉などの見どころを巡るこの道は、登山というよりも信仰の巡礼路としての趣があります。
大野方面から東海自然歩道を利用するルートや、湯谷温泉から鳳来寺山パークウェイを利用する車道ルートもあり、体力や目的に応じて選択できます。鳳来寺山パークウェイは現在無料で通行でき、山頂付近まで車でアクセス可能です。
鳳来寺からさらに東へ進むと、朱塗りの鳥居が美しい鳳来山東照宮が現れます。この東照宮は、徳川家光が日光東照宮参詣の際、徳川家康誕生にまつわる鳳来寺の伝承に感銘を受け、建立を発願したものです。
慶安4年、四代将軍家綱の時代に完成し、現在は日光・久能山と並ぶ日本三東照宮の一つとされています。本殿・拝殿・幣殿などは国の重要文化財に指定され、幾度もの大修理を経て、今もその威厳を保っています。
鳳来寺山周辺には、鳳来寺山自然科学博物館、鳳来寺山ろく青少年旅行村、湯谷温泉、鳳来峡、愛知県民の森など、多彩な観光資源が点在しています。登山や参拝だけでなく、温泉、森林浴、自然学習など、さまざまな楽しみ方ができるのも魅力です。
JR飯田線の本長篠駅・三河大野駅・湯谷温泉駅などから、新城市が運行する「Sバス 湯谷温泉もっくる新城線」に乗車し、「鳳来寺山山頂」停留所で下車します。これは月曜から土曜に運行されています。
また、11月の紅葉シーズン限定で、急行バス「鳳来寺山頂」行きも運行され、観光客にとって便利なアクセス手段となっています。
東名高速道路豊川ICまたは新東名高速道路新城ICから国道151号を北西方向へ進み、長篠交差点から表参道方面または山頂駐車場へ向かうルートが利用できます。湯谷温泉から鳳来寺山パークウェイへ進入することも可能です。
鳳来寺山は、太古の火山活動が生んだ地質、原生林に守られた豊かな自然、そして1300年を超える信仰の歴史が重なり合う、奥三河を代表する霊山です。石段を登り、森に耳を澄ませば、自然と人の営みが共に歩んできた時間の重みを感じることができるでしょう。登山、参拝、紅葉狩り、歴史探訪――さまざまな魅力に満ちた鳳来寺山を、ぜひ現地で体感してみてはいかがでしょうか。