電照菊は、光を人工的に照射して開花時期を制御する菊の栽培技術および、その方法で育てられた菊の総称です。通常は秋に咲く“秋菊”を、光を照らすことで開花を遅らせ、冬から春(1~3月)に美しい花を楽しめるようにします。昭和12年、豊橋市で日本初の電照菊栽培が始まり、現在は渥美半島(田原市・豊橋市)を中心に国内シェア約30%を占める一大産地となっています。
菊は「日照時間が短くなると花芽をつくる」という性質をもちます。電照菊では、花芽ができる前の5~8月の夜間(午後10時~翌午前2時頃)に温室内で人工光を照射し、あたかも“昼”のままに見せかけることで花芽形成を抑制。9月以降に通常栽培に戻すと、花芽形成が“解禁”され、数ヶ月遅れで開花します。これにより、1~3月の出荷が可能になります。
温室は夜間でも光が遮断されないよう密閉性を高め、照明にはかつて白熱電球やアセチレンランプが使われました。近年は省エネルギー型の専用電照灯や蛍光灯、LED照明が導入され、電力消費とCO₂排出を抑えつつ安定した光環境を実現しています。
主に秋菊品種が使われますが、技術向上で夏菊にも応用でき、開花時期のずらし幅は最大9ヶ月に。さらに温室で太陽光を遮断する「覆光(ふくこう)栽培」を併用すれば、年間を通じて多様な品種を出荷できます。
昭和14年(1939年)頃、カルシウムカーバイド発生のアセチレンランプで電照栽培が試みられましたが、戦局悪化で一度中断。戦後の1947年から豊橋市で本格化し、1948年には渥美半島へ導入されました。
昭和30~40年代には、渥美半島一帯で年間約60万樽(70kg樽換算)の沢庵が出荷されたほど農業が賑わいました。菊も同様に拡大し、2010年の東京市場向け出荷では愛知県が本数・金額ともに全国1位を獲得。田原市単独では県内シェアの80%以上を占めています。
田原市・豊橋市の農協直売所や道の駅「あかばねロコステーション」では、電照菊の切り花が並びます。冬の室内を彩る鮮やかな菊花をぜひお持ち帰りください。
一部の農家やJA主催で、電照菊ハウスの見学会が開かれます。夜間照明の様子や栽培設備を間近に観察できる貴重な機会。事前予約制のところが多いので、JAや観光協会の情報をチェックしてみてください。
電照菊は、太陽の光を人工的に延長し、菊の花を思い通りの時期に咲かせる日本発祥の画期的技術です。渥美半島の温暖な気候と豊富な水資源が育んだこの産地では、冬から春にかけて全国へ美しい菊を届けています。伝統と最新技術が融合した電照菊の華やかさを、ぜひ現地で体感してください。