西尾茶は、愛知県西尾市および隣接する安城市を中心とした地域で栽培・生産される高品質なお茶で、そのほとんどが抹茶として加工されます。「西尾の抹茶」は、その地域ブランド名として登録されており、全国に名を馳せる抹茶の名産地として知られています。
西尾茶の魅力は、深い緑色をした茶葉、上品で爽やかな香り、そして穏やかでまろやかな旨味とコクにあります。収穫前に黒いネットを茶葉の上に約20日間被せることで、太陽光を約97%遮断し、アミノ酸が豊富な茶葉に育て上げます。これにより、風味豊かで香り高い抹茶が生まれるのです。
主要な生産地は西尾市の北西部にある稲荷山周辺で、水はけの良い砂質壌土が広がっています。茶葉を挽く茶臼の原材料である御影石が産出される岡崎市が隣接していたことも、西尾茶の発展に寄与しました。
かつては主に茶道で使用されていた抹茶ですが、西尾ではいち早く食品加工用としての可能性を見出し、抹茶アイスや抹茶ラテ、チョコレートなどのさまざまな製品に応用されました。現在では、生産される茶葉の約90%以上が加工用途として使われています。
1271年(文永8年)、実相寺の開祖である聖一国師が宋(中国)から茶の種子を持ち帰り、紅樹院の境内に植えたのが西尾茶の始まりとされています。
1872年(明治5年)には、宇治から茶種と製茶技術を持ち帰った紅樹院の住職・足立順道が境内に茶園を開設し、1884年(明治17年)には稲荷山一帯に新たな茶園が開墾されました。その後、昭和10年代には「三河式トンネル碾茶機」が考案され、西尾茶は地場産業として大きく発展します。
1960年頃には、全国的な茶の生産過多により西尾の茶業も危機を迎えますが、抹茶の食品加工用原料としての可能性に注目し、2009年(平成21年)までの30年間で生産量はほぼ倍増しました。
2005年から、西尾市は地域ブランドの確立を目指し取り組みを開始。2009年2月20日には、「西尾の抹茶」として特許庁により地域団体商標(登録番号:第5204296号)として登録されました。これは、抹茶に限定した地域ブランドとしては全国初の快挙です。
「西尾の抹茶」のブランドには厳しい条件があります。愛知県西尾市・安城市・旧幡豆郡吉良町で生産された茶葉であること、同地域内でのてん茶加工および製造、伝統的な茶臼挽きが必須とされています。
2017年には、農林水産省の「地理的表示保護制度(GI)」にも登録されましたが、2020年には生産工程管理業務の廃止を理由に登録が抹消されました。
西尾市では、茶摘みや茶会などを通じて子どもたちにも茶文化を伝えています。1941年から中学校での「全校茶摘み」が始まり、1949年からは市内すべての中学校で実施されるようになりました。
2006年には、市内のメインストリート1.5kmに赤い絨毯を敷き詰め、約1万5000人が抹茶をたてて飲む「西尾大茶会」が開催され、ギネス記録にも登録されました。2007年からは、10月8日前後の1週間を「おもてなし週間」として様々なイベントが行われています。
2019年(令和元年)には、西尾市で15年ぶりに「全国茶品評会」が開催され、全国から920点もの出品がありました。会場は西尾コンベンションホールでした。
茶畑の中心部に位置する稲荷山茶園公園からは、美しい茶畑が一望できます。
春先から初夏にかけて、茶畝には寒冷紗(黒いネット)が二重にかけられ、光を遮断することで旨味のある抹茶用茶葉を育てます。
手摘みされた茶葉は丁寧に処理され、抹茶へと加工されていきます。
「西尾の抹茶」は抹茶スイーツや飲料、健康食品にまで幅広く応用されており、現代の食文化にも深く根付いています。
西尾茶、そして「西尾の抹茶」は、歴史と自然、そして人々の努力によって育まれてきた日本の誇るべき抹茶文化の結晶です。伝統的な技術と現代のニーズを融合させたその姿は、これからも日本のみならず、世界に向けて発信されていくことでしょう。西尾市を訪れた際には、ぜひその香りと味わいを現地でご堪能ください。